作為ではなく、ただ正直に。
"在る"ものを描き続ける。

11 Story

ASA HIRAMATSU

画家

静かな住宅街に佇む小さなアパートの一室をアトリエにして、平松麻さんは黙々と絵を描く。手にしているのは筆ではなくペインティングナイフ。それで油絵の具を取り、下地を作った木製パネルに重ね塗る。時には乾いた絵の具を布やすりで削り、絵肌を完成させる。その制作スタイルはどこかで学んだものではない。幼い頃から愛用する根来塗のお椀に影響を受けている。

伝統技法から着想を得た、
“自然さ”を描くという挑戦。

「根来塗は黒漆を下地にして朱漆を重ねた器で、使っていくうちに表面が磨耗し、黒い漆が露出していきます。決して作為ではなく、使い込むうちに自然と美しい景色が表れる。私もそんな表情を描けたらいいなと思って、絵を続けています」

自分の中にだけある景色を
そのまま表現するということ。

伝統的な根来塗に着想を得て生まれた彼女の作品には、広大な土地や空が静かに広がっているものが多い。それは実在する場所ではないけれど、勝手に作り上げたイメージでもない。すべて平松さんの中に“在る”景色だという。
「不思議に思われるかもしれませんが、私のお腹のあたりには土地が広がっていて、そこをひたすら歩いてたどり着いた場所から見た景色を描いています。私の絵を見て“独創的だ”と言ってくださる方もいますが、それは自分の中に“在る”ものに気づいて描いているからではないでしょうか」

“在る”ものに真摯に向き合った
普遍的に愛される独創性。

彼女にしかないものだから、誰かと同じにはならない。自分と向き合う作業を続けて見えた世界。だから、“在る”ものに目を向けずに作ったものは自分にとって嘘になると平松さんは言う。「“在る”ものに気づいて正直に作ったものは、普遍的に愛される。そんな気がします」

平松 麻

(ひらまつ・あさ 画家)

1982年生まれ。2012年より本格的に描画を開始。展覧会で作品を発表するほか、『きっとあの人は眠っているんだよ 穂村弘の読書日記』(河出書房新社)など、書籍の挿画も手がける。今冬に都内で個展予定。